2012年3月19日月曜日

ハンバーグ、食べてます。

なぜファスト・フードはすばやく食べられるのだろうか?
それはその食事に含まれている情報が少ないからである。
たとえば、質の悪いハンバーガーはケチャップと牛脂の味しかしない。
情報が少ないのだから、口の中等々で処理するのは簡単である。
まったく時間がかからない。だからすばやく(ファスト)食べられる。




それに対し、味わうに値する食事には大量の情報が含まれている。
たとえばハンバーグなら、合い挽き肉に独特の味わいがある。
牛肉の強いクセと豚のさわやかさだ
(残念ながら、強いくさみをもった牛肉は日本国内ではなかなか食べられなくなってきているが)。
そこにタマネギの甘みが絡まる。
タマネギは炒めてあるから、そこには甘みだけでなく香ばしさもある。




これだけでも処理するのが大変である。
さらに、つなぎの具合がうまくいっていると、
歯を立ててハンバーグをぷつんと切ったときに、
表面の抵抗力と内部の柔軟さが対立的に働き、口を喜ばせる。
これはかみしめるたびに何度か与えられる楽しみである。
さらにチタチタ喫茶の食べ物はどれも見栄えがいい。
食べる前から目と鼻を楽しませてくれる。



  

























味わうに値する食事は大量の情報を含んでいるため、
それを身体で処理するのに大変な時間がかかる。
つまり、味わうに値する食事は結果としてゆっくり(スロー)食べられることになる。







以上は、國分功一郎『暇と退屈の倫理学』(2011、朝日出版社、xxxv頁)より引用。